ちょうどいいホンダのキャッチコピーでデビュー以来、ホンダ四輪車の主力商品として定番化しているコンパクトミニバンのフリード。3代目となる待望の新型が、2024年5月にアンペールされました。今回の発表は先行的なデザイン公開であり、車両価格やスペックの詳細などは明かされていません。特設サイトにて公開されている情報が現時点でわかっているもののすべてで、残りは6月に予定している正式な販売開始までお預けです。
■フリードってどんなクルマ?
新型の解説の前に、改めてフリードとはどんなクルマなのかを少しおさらいしておきましょう。フリードは、スパイクの後継として08年にデビューした、コンパクトなボディに3列のシートを備えたミニバン。ホンダのミニバンラインナップでは最小となりますが、全長4.3mほどのボディに大人でもしっかり座れるシートを備えていることが特徴でした。
先代の2代目は16年9月に登場し、24年まで約8年販売されてきました。Bセグメントのコンパクトカー、フィットとプラットフォームを共有しながらも、ライバルのトヨタ シエンタを圧倒するシャシー性能と走行性能を誇りました。価格帯がシエンタよりも少々高めでしたが、それも納得できるほど走行性能の差は圧倒的でした。
そういった作りのよさも相まって、フリードは多くの販売台数を稼いだホンダ車とも知られています。ホンダではN-BOXという不動の販売台数1位モデルが有名ですが、2代目フリードは昨今のホンダの登録車のなかでもっとも売れているクルマです。2代目が登場してからは、自販連が毎月発表する「乗用車ブランド通称名別順位(通称:販売ランキング)」のベスト10常連モデルとなり、モデル末期の23年度(23年4月~24年3月)でも74,681台の10位にランクされるほどの人気車でした。
■新型はエアとクロスターの2本立て
24年5月9日に公開された3代目フリードは、全体的には先代までの特徴を生かしながら正常進化させたモデルとなっています。ここからは3代目の変わった点、進化した点を中心に見ていきましょう。
今回のフルモデルチェンジでは、プラットフォームが先代からキャリーオーバーされています。ホイールベースやボディサイズ、基本的なパッケージングなどは大きく変えられない制約のなかで、どこが変わっているのかに注目されました。
兄貴分のステップワゴンと同様2つのデザインシリーズを展開するラインナップへと変わったことは、3代目フリードの大きなトピックといえるでしょう。従来までの5人乗り専用フリード+は廃止され、スタンダードな外観の「AIR(エア)」、SUV風のワイルドな雰囲気をプラスした「CROSSTAR(クロスター)」から選べるようになっています。
全体的にクリーンで上質なデザインのエアは、使い勝手のよさを感じさせる信頼感のあるデザイン。ステップワゴンのエアと同様、シンプルに仕上げていながらも上質感を忘れていません。今までのフリードと同じフォルムながら、プレスラインの少なさなど新鮮さが見て取れます。
対してクロスターは、アウトドアテイストを強く表現したデザイン。下部がブラックアウトされた専用前後バンパー、ホイールアーチのガーニッシュ、ルーフレールなどギア感のあるアクティブなイメージに仕立て上げています。
2つのデザインラインだけではありません。細長い4灯ライトにも見えるデイライト付きのヘッドライトや、水平基調のベルトラインなど最近のホンダ車に見られる特徴も忘れずに取り入れられています。ひと目でフリードだとわかるフォルムを継承しながらも、最新版にアップデートされていることは一目瞭然でしょう。
■ハイブリッドはついにe:HEVを搭載
インテリアは、全体的にゆったりくつろげる空間を意識してデザインされています。クロスをふんだんに使ったダッシュボードや、明るめのカラーで仕上げられるエアに対し、クロスターはダーク系の色でまとめられ、キャラクターも明確に分けられました。
3列シートのパッケージングこそ変わりませんが、ユーティリティの面でも3列目シートの跳ね上げヒンジを低くし収納しやすくしたり、リアシート用のエアコン追加、リアクォーターガラスの拡大など、先代を知る人なら嬉しくなるような使いやすい改良が施されています。
メカニズム面でも、ハイブリッドシステムが変わっています。先代までは一世代前の1モーターシステム「i-DCD」でしたが、フィットやその他のホンダ車と同様2モーターシステムの「e:HEV」へと進化しました。モーター走行領域が広がるため、燃費も期待できる最新システムです。もちろん、ハイブリッドではない従来からのICE(エンジン)車もラインナップしています。
グレード展開は、エアがベーシックグレードと上級グレードのEXの2グレード、クロスターは1グレードの設定。それぞれICE車とe:HEV車、FFと4WDが用意されます。シートは2列目がセパレートの6人乗りが基本。エアEXのFF車に2列目がベンチシートになる7人乗りが、クロスターに3列目シートレス仕様の5人乗りが追加ラインナップされています。
■シエンタとどちらがいいの?
さて、気になる人には気になる、ライバル車シエンタとの比較の点ですが、2車ともに特徴がありますので好みは分かれるかもしれません。価格帯に関しては、従来からと同様フリードが若干高額になると予想されています。フリードの乗ればわかる静粛性や乗り心地など、ワンランク上の走りの上質感は新型でも健在でしょう。価格差は仕方ないかもしれません。
あとは、サードシートがしっかりと座れるフリードと、あくまでも簡易型のシエンタの違いもあります。ここは未使用時の収納方法も変わってきます(シエンタは床下収納)ので、好みで選ぶことになるでしょう。じつはシエンタも5月20日に一部改良を実施しましたが、ADAS(先進運転支援システム)やインフォテインメントシステムはフリードのほうが全体的に一世代最新型となります。
さらに魅力の増した新型フリードの登場により、コンパクトミニバンの覇権争いはさらに活発化するでしょう。現在はシエンタが大きくリードしていますが、当然フリードは逆転を狙っているはず。現在は受注のみ受け付けているフリードが本格的に発売される6月以降は、差が縮まることは間違いないでしょう。
気になっている人は、まず両車とも実際に見て、試乗してみることをオススメします。ミニバンは、実際に使ってみての使い勝手や、各シートの乗り心地などが非常に重要になってきます。自分のライフスタイルに合っているほうはどちらなのか。それを、まずは試乗で確かめてみましょう。
<文=青山朋弘 写真=ホンダ>