毎年夏のボーナス時期が近づいてくると、クルマ業界も活気づいてきます。年度末に続く繁忙期として、年2回のボーナス時期はクルマ業界にとっても稼ぎどき。各社、新型車やお買い得な特別仕様車を多くリリースしてくる頃でもあります。
そんな夏のボーナスが入って、初めてのマイカーを買おうと勇んでいる社会人1年目や2年目の若い人たちが悩むのが、どのコンパクトカーがイイのか問題。なかでも、トヨタの2大看板モデル「ヤリス」と「アクア」は悩む人も多いのではないでしょうか。そこで今回はこの2台の特徴を解説していきます。
■どちらもトヨタのBセグコンパクト
ヤリスとアクアは、それぞれBセグメントと呼ばれる、今の日本では軽自動車に次ぐ小さなジャンルのクルマ。ともにトヨタが製造し販売するクルマです。取りまわしのしやすいコンパクトなボディから、老若男女問わず人気があり、初めて買うクルマとしても多く選ばれている車種でもあります。ほかのメーカーでは、ホンダ フィット、日産 ノート、スズキ スイフトなどが同じジャンルのライバル車として知られています。
この2台、同じトヨタのコンパクトカーであり、ハイブリッドが選べる点など共通点が多く見られます。実際に、クルマの大本となるシャシーは共有(GA-Bプラットフォーム)しておりパワートレインも同じものを使用。兄弟車といっても過言ではないほど、特徴が似ています。
では、逆にどこが具体的に違うのでしょうか。デザインや価格はもちろんですが、わずかなサイズ違いがもたらす走りや乗り心地など、似て非なる部分も多く見られます。似たようなメカニズムを持ちながら、じつはまるで違う2台の特徴を、1台ずつ見てみましょう。
■走りがしっかりキビキビ系のヤリス
まずは、販売台数ランキングでトップ3常連のヤリス。つねに上位をキープできるのは、SUVのヤリスクロスと合算カウントされているからという理由もありますが、それでもベーシックコンパクトとしてハッチバックのヤリスは人気があります。ヤリスは全日本ラリー選手権やワンメイクレースなど、モータースポーツで使われるほど素性のいいクルマです。その動きはキビキビと表現するのが適切かもしれません。
ステアリングやペダル類の操作系が剛性高くしっかりと作られているため、操作に対する不安感が少ないことが特徴です。これは従来のコンパクトカーからすれば考えられないような話であり、ワンランク以上質感がアップしている感覚です。ヤリスは登場から2019年12月に現行型へ変わり、こと走りの面では大幅な進化を果たしました。操作に対して素直に動き、特性もニュートラルですので、運転を覚えたい、運転が上手くなりたいと思う人には最適な1台となるでしょう。
ただし、後述のアクアと比べると乗り心地はだいぶ硬くなります。シートが少々簡素なことも相まって、長距離運転時には疲れを感じるかもしれません。1人で乗る機会が多いのであればいいかもしれませんが、ほかの同乗者をよく乗せる機会があるのでしたら、後席スペースの広さも合わせてもっと乗り心地のいいクルマを選んだほうが喜ばれるでしょう。
■アクアの乗りごこちは癒し系
対してアクアは、現行の2代目は21年7月とヤリスから1年半以上遅れて登場しました。先代同様ハイブリッド専用車としてリリースされ、ここはICE(内燃機関)車もラインナップするヤリスとの大きな違いとなっています。価格も違いのひとつで、214.6~283.7万円とヤリスの150.1~269.4万円より高く設定されました。
アクアがヤリスと決定的に違う点は、ソフトな乗り心地です。ヤリスから50mmロングホイールベース化されたシャシーは、同じプラットフォームを使っているとは思えないほどしなやか。同乗者からクレームが来ることは、限りなく少ないでしょう。ヤリスのキビキビ感が損なわれる代わりに、乗り心地が格段によくなっています。これはアクアのほうが価格が高い分ひとつ上級な位置付けとしているためで、同じメーカー内でしっかりとキャラクターが分けられています。
全長が100mm長い分デザインの自由度がきき、ヤリスよりも空気抵抗の軽減に優れたエアロボディは静粛性の抑制にも効果的。上質感を演出するひとつの要素です。燃費に関しては、同じハイブリッド車で車重が80kg重たくなっているせいもあり、ヤリスの36.0km/Lに対しアクアは34.6km/Lと若干悪くなっています。しかし、この燃費性能は国産車のトップクラスであり、もちろん世界的にみても稀に見るほど低燃費なクルマに仕上がっています。
■スポーツ系は別物?
トヨタのモータースポーツ部門、いわゆるワークス活動を担うGR(Gazoo Racing)のモデルが選べることも、この2台の特徴です。しかし、これには少々注意が必要です。まずアクアは、GRスポーツというグレードが設定されていますが、こちらはベースが変わらないスポーツチューニングモデル。少々値が張る、最上級グレードという位置付けです。アクアでも走りを楽しめる、オールマイティな1台に仕上がっています。
対してヤリスには、GRスポーツのグレードがありません。代わりにGRヤリスという別車種が用意されています。こちらは、ヤリスとは名ばかりのモンスターマシン。ラリーカーのベースモデルとなっている、正真正銘のピュアスポーツカーです。1.6Lターボ+4WDで、強烈な加速力と走行性能が味わえるモデルではありますが、価格がヤリスとは思えないほど高額に設定されています。まったく別物と考えましょう。
■どっちがいい? 買取が有利なのは?
さて、この似て非なる2台を解説しましたが、結局どちらがいいのでしょうか。それは、どこを重要視するのかという点でも変わってきます。例えば車庫の大きさに制限がある場合は、少しでもボディの小さなヤリスがベストかもしれません。また、前述のとおり乗り心地を重視するなら、圧倒的にアクアです。ひとつの決め手として、1人での乗車が多いのであればヤリス、ほかの同乗者を乗せる機会が多いのであればアクア、と決めてしまってもいいのかもしれません。いずれにせよ、走行性能は2台ともに長所と短所がありますので、購入する前の試乗は強くオススメします。
一方、中古車市場での価格は、ハイブリッド専用車で上級な位置付けということもありアクアが高値で取引される傾向です。2024年6月現在の中古車平均価格は約210万円で、流通台数は900台を下まわるほど。対してヤリスは、流通している台数の2/3以上がICE車ということもあり、160万円ほどの平均で約1500台が流通しています。
買取の場合もこの差はあると考えていいでしょう。ハイブリッド車同士で比べればアクアのほうが流通量は多くなりますが、全体の流通台数はヤリスが圧倒しています。需要が同じくらいと考えても、ひとつ上級に作られているアクアのほうがいい条件が出やすいでしょう。
悩ましいコンパクトカー選びのなかでも、特に比較されやすいトヨタの2台を取り上げましたが、ホンダ フィットや、日産 ノート、スズキ スイフトなど、他社にもいいコンパクトカーは揃っています。気になるクルマはまず乗ってみましょう。試乗すると、自分に合っているかが分かりやすくなります。価格帯も、クルマによって大きな開きがあるジャンルでもありますので、初めてのクルマ選びで後悔しないようしっかりと選びましょう。
<文=青山朋弘 写真=トヨタ>